翌日、僕らはバイキングの開始時間である六時半には活動を始め、一番乗りでレストランルームに入った。

「すごい…」

「フルーツバー」

「パンケーキのソースも何種類もあるよ」

インドネシア料理だけでなく、洋食やサラダバー、どことなく和食っぽいものにスープが数種類、トッピングが数えきれないほど並ぶバイキングは、愛想のいいスタッフが「空いてるお席どうぞ」と通してくれたテラス席でとることにした。もう既に上り始めている太陽を横目にたくさんの料理をお皿にとってテーブルに並べる。料理はどれも美味しくて、朝から得したような気分だった。

虎も食べられるものがたくさんあったようで、少し無理やりサラダを食べた後ひたすらオムレツとパンケーキとワッフルを頬張り、何か分からない果物も平らげた。そのあと部屋に戻り荷物をまとめてチェックアウトを済ませたタイミングでジャッキーが迎えに来てくれた。

「おはよう」

「おはよございます」

「今日もお願いします」

「はい、お願いします。今日波良いよ」

スーツケースと板の入ったケースを車に積み込みシートに座るとジャッキーがスマホの画面を僕らに見せてくれた。僕にはよく分からなかったけれど、虎は「ほんとだ」と短く返事をしてその画面をじっと見つめていた。

「レンさんは何してる?」

「ポイントはどの辺りなの?」

ここ、とビーチの名前を指され、検索すると大きなカフェとプールが併設されているような場所だった。僕はそこでコーヒーでも飲みながら待ってるよと答え、近くに何があるかも一応調べることにした。虎は昼までしか海には入らないと宣言し、もっとゆっくり入ってていいのになと思いながらもその気遣いに「楽しんでね」と返事をする。

まだ少し早い時間ではあるものの、バリの道路は相変わらず混雑していた。三人乗りのバイクに今にも落ちそうなほど荷物を積んだトラック、その横を流れる景色がひしめきたつ建物から木のオブジェや石像が雑多に並ぶお店に変わり、到着するころには南国らしい木々がずらりと空を遮る道に変わっていた。

「あー、いいね、いい波」

「いいの?」

「いい」

「コーヒーでも飲む?バリコーヒー」

「バリコーヒー?」

「甘くておいしい」

ネットや本の情報でそれは知っていたけれど、それがどれほどのものなのか想像は出来ていない。僕らはホットコーヒーをテラスからそのまま海に入れるオープンカフェでそれぞれ注文した。出てきたバリコーヒーは想像を絶する甘さでこれはコーヒーなのか、と笑えるほどだった。虎はものすごく美味しいという顔であっという間にカップを空に。甘いものは得意ではないけれど、ここまで甘いとこういうもの、と割り切れるのか僕もあっさり飲み干してしまった。全身に染みる甘いコーヒーも悪くない。舌に残ったザラつきはこのコーヒー特有のものなんだろうか。そういう新しい発見も、一つ一つ知っていくだけで楽しい。わくわくする。

強くなりだした日差しに日焼け止めを塗ることを思い出し、顔と剥き出しの腕と足にだけそれを伸ばすことにした。僕らのほかにも何人かのサーファーがコーヒーを飲んだり朝食をとったりして海を眺め、既にそこで波待ちをしている数人を見つめていた。

「虎も行く?」

「ん、そろそろ」

「トラさん行きますか、じゃあこっちから」

「二人とも気を付けてね」

「どこに居る?」

「あっちにプールとかパラソルがあるからそっちにいるね」

「トロピカルジュース?」

「いいね、飲みながら本でも読んで待ってるね」

「ん、ごめん」

「全然大丈夫。行ってらっしゃい」

板を抱える腕をやんわり撫でると、無性にもっと触れたくなってしまい慌てて手を離した。

雨季と言いつつ、その雨季ももうすぐ明けるらしい。雨が降ってもスコールのように一気に降り、やんだ後は晴れ間が覗く。ジャッキーにそう教えられ、日本の四季とその移ろいが綺麗で趣のあるものだという一方で、一年を通して安定した温暖な気候なのも魅力的だな、と思った。虎を待つ間に注文した緑のフルーツが数種類入ったミックスジュースを飲みながらパラソルの下に設置された大きなソファーベッドで本を読むのんびりとした時間も、日常から切り離されたようで心が和らぐ。強い日差しに波風、潮の匂い、波の音、視界に入りこむカラフルなパラソルとヤシの木。オシャレなグラスに入ったオシャレな飲み物。

何度かプールに入りながら海を眺め虎とジャッキーを探したけれど見つけるのは難しかった。あ、と思えば見えなくなり、板の色や柄絵あれだろうかと推測するのが精一杯。それくらいサーファーが多い。

そんな二人は宣言通りお昼を回る頃に海から出てきてランチにしようとメニュー片手に僕のところに来た。







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